51% 五割一分

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Interview | 先入観を見つめ直した家づくり。

2024.04.11/ INTERVIEW
Interview | 先入観を見つめ直した家づくり。

三重県から単身東京を経て、富山へ。

伊藤さんの4人家族が三重から富山に引っ越してきて、この春で4年が経つ。夫の大祐さんが、一念発起して五割一分のチームへ参加したのは2019年のことだった。それから1年遅れて、家族3人も追いかけるかたちで富山への移住を決めた。現在、小学校で講師を務める妻の彩恵さんは「夫が前職で三重から東京へ単身赴任していたこともあり、何よりも家族4人で暮らせることが嬉しかったし、家族で訪れたことのあるSAYS FARMを設計した五割一分の家で暮らせるかもしれない、と思うと楽しみだった」と、富山への移住を快く賛成。当時小学4年生だった長女は、友達と離れるのを寂しがったが、「パパと暮らせるし、(東京じゃなくて)富山ならいいよ。」と最後は納得してくれ、5歳だった次女にとっては、ワクワクの方がずっと大きかったそう。

 

伊藤家が富山に拠点を移して間もなく、これからずっと暮らしていく場所として選んだのは、全国の自治体の中でも最も小さいと言われる「舟橋村」だ。舟橋村は、広がる田園の向こうに雄大な立山連峰を望む、豊かな自然の景観が美しいエリアである。富山市まで車で30分もかからず、利便性もそう悪くない。「三重時代と同じような田舎暮らしでも、子どもの進学や成長に合わせて、どこへでも足を運びやすいように駅に近い場所を選びました。」と大祐さん。

「靴での暮らし」を考える。

大祐さんが家づくりで望んだことは「靴のまま過ごせるリビング」だった。「以前から漠然と考えていたことではあったんですが、五割一分の同僚の1人が、実際に靴でのライフスタイルを実現していて。それを間近で見てからは、一見難しそうだと思われる部分について、自分も含めて家族が納得できる解決策を、一つずつ模索していく作業でした。職業柄、リビングを綺麗に保ち、暮らしを整える意識を持ちたかったのと、リビングは〈家族にとってのパブリックな場所〉になるといいなと思っていました。」と大祐さん。

 

実際にこの家では、靴を脱ぐ場所は階段を上がった2階にある。2階には各居室とクローゼット、洗面室・ランドリー・風呂などの水回りが配されており、各自の身支度、就寝前の風呂や歯磨きは、2階で済ますことになる。結果的に1階のLDKでは、自ずと家族が身なりを整えた状態で集まることが多くなる。

 

一方、妻の彩恵さんからのリクエストは「グランドピアノが置けること」。4歳からピアノを始め、高校・大学と音楽科を卒業し、富山に来る前はピアノ教室の講師をしていた彩恵さん。将来またピアノ教室を、今度は自宅で始めたいという想いもある。そうなれば、ピアノを置いたリビングは、ゲストが日々訪れる文字通りパブリックな場所となる。子どもたちが、既にある程度大きくなっていたことも理由の一つだろう。そう考えると「靴での暮らし」は理に叶っていた。

「ピアノ室を作るほどでもない。いつかピアノ教室としても使えるリビングと、それ以外のプライベートな部屋を分けたいけど、どうして良いかわからなかった」と彩恵さんは当時を振り返る。

伊藤邸は線路の真横に位置するが、窓や中庭を囲むRC塀の開口と、電車の車窓の高さはずらして設計された。

Interview | 先入観を見つめ直した家づくり。
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「靴での暮らしは、住んでみるとメリットの方が大きかったんです」

リビングから出られる中庭は、プライバシーがしっかり守られた空間として使えることも気に入っている。3mを超えるRC塀には、2カ所に切り欠いた開口がある。その先には整備された田園が広がり、閉塞感は感じない。子どもたちはそこで縄跳びやキックボードに興じ、暖かい季節には花火や焚き火、バーベキューを家族で楽しむ。

 

「靴での暮らし」では、リビングから中庭へ出る際も、当然靴を履き替える必要がないため、伊藤家の中庭はリビングの延長のようだ。夫は分煙のためのベンチを設え、妻は植栽の水遣りの時間も楽しいと言う。つまりこの家では、内外の移動が想像以上にエフォートレスなのだろう。「建てる前は、多少の不便はあるだろうと覚悟していたんですけど、住んでみるとメリットの方が大きかったです」と彩恵さん。

 

日本人が畳中心の暮らしから離れて久しく、例えばホテルでは室内履きに履き替えることはあっても、靴のまま部屋に入ること自体に特段の違和感はない。そう考えると、現代の私たちの生活において「靴での暮らし」は、家づくりする際の一つの選択肢として考えてみるくらいは自然な事のようにさえ思えてくる。

 

家を建てる時は、まず「現実」を考慮した上で「理想」を叶えるアプローチが一般的かもしれないが、この家は逆だ。「こう暮らせたら」という理想が先にあり、現実的には難しそうだと思われることに対して、「本当に難しいのか?」と施主自身がひたむきに既成概念を問い直していった先に、出来上がった家なのだろう。

玄関に置かれた家族ごとのロッカーと、レターケースは、スイスのモジュール家具〈USMハラー〉が採用された。

「家具の配置」で決まる、暮らし方。

玄関周りには、家族4人分の手荷物をしまうロッカーと、郵便物を分けられるレターケースが設けられた。これも、手荷物や郵便物をうっかりリビングに溜めてしまわないための配慮だ。また土足だからこそ、床にモノを置くことへの抵抗が生まれ、自然とリビングには個々の荷物があまり持ち込まれなくなったそう。家族の中で皆より一足先に帰宅する次女は、ダイニングではなく、きちんと2階の自室で宿題をするというのだから、リビングにランドセルや学校のものが散らかることはそう多くないという。

 

「暮らし」というのは建築的手法のみでは完成し得ず、暮らしのすぐ傍にある「家具」のことを考えずには、その先にある「暮らし方」は思い描けないものだろう。例えば、使い方に適したテーブルやソファの「大きさ」、玄関周りに置いたロッカーやソファの向きなど、それぞれの家具の「配置」の仕方についてである。暮らすために必要な道具である家具の「大きさや配置」が決まれば、自ずとそれらを取り囲む空間(部屋)の広さが決まり、動線が生まれ、暮らし方が定まる。また暮らし方が定まる事で「照明計画」も決まっていく。この家の照明計画からも、LDKには全体を照らすダウンライトはなく、場所ごとの過ごし方に合わせた照明が配されていることが見てとれる。

 

「考え方的に、夫婦ともに子どもにライフスタイルを合わせるタイプじゃない。」と言う夫婦の理想や生き方が詰まったこの家と、そこに住む子どもたちは、これからどのように成長していくのか、楽しみだ。

長女の部屋。

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次女の部屋。姉妹ともに自室のインテリアを楽しんでいるのが微笑ましい。

建物竣工時の写真はこちら

 

所在:富山県中新川郡舟橋村
竣工:2022年
家族構成:夫婦+子2人

建築設計:五割一分

家具・照明スタイリング:五割一分

 

 

 

 

 

五割一分で建てる家

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富山オフィス:富山県富山市磯部町3-8-6
東京オフィス:東京都渋谷区代々木5-67-2
Written by 51% Achitecture
51% Architectureは、富山と東京に拠点を置く建築設計事務所。全国で様々な住宅・商業施設・オフィスの設計、リノベーション、インテリアコーディネート等を手掛け、流行に左右されないタイムレスで心踊る建築を探し続けています。
Editing by 51%
ある陶芸家さんが言いました。「美しいか、否か?なんてのは、ほんの些細な違いだよ」「いつも51対49でせめぎ合ってるよ」「だから僕達創り手は、ほんの些細なその1%に魂を込めて、その1%に願いを託すんだ」いつもややこしいと言われる五割一分の名の由来は、その時のお話からいただいたものです。