
熟成がひらく日本酒の可能性
風土性ゆたかな職人の技が生きたお酒。IMADEYAは造り手との深いパートナーシップのもと、少量生産の日本酒や日本ワインなどを国内外へ広く紹介してきた酒屋だ。2023年には酒造・酒販業界全体に画期的な取り組み「IMADEYA AGING LABORATORY」を立ち上げた。「熟成(エイジング)による新しい価値を生み出していきたい」と専務取締役の小倉さんは語る。「日本酒はワインのように熟成の文化がなく、職人の仕事への評価が高い一方で『安すぎる』とも言われてきました。エイジングという新しい文化を根づかせることで、日本酒全体の価値も上げていきたいと考えています」
熟成がもたらす変化の魅力は、味わいの角がとれて丸くなり、さまざまな要素が混ざる複雑さが生まれること。千葉本店とNAGOYA SAKAEに併設のAGING LABでは、日本酒、日本ワイン、国産蒸留酒(本格焼酎など)を厳密な温度管理のもと3年以上熟成。同じ積算温度でも3℃で5年と5℃で3年に違いはあるのかなど、細かな検証を繰り返しながら出荷のタイミングを見極めている。テイスティングに訪れた人たちも、日本酒の未来に関わる実験的なプロジェクトに参加している感覚があるという。

千葉本店の熟成庫には1万6千本以上のお酒が。販売開始以来好評で常に品薄な状態

松坂屋名古屋店内にあるIMADEYA NAGOYA SAKAE
「IMADEYAのロゴにはアートを据えるべきだ」
これまでGINZA、千葉エキナカ、SUMIDA、KARUIZAWA、NAGOYA SAKAEと、IMADEYAの店舗設計及びグラフィック全般に携わってきた五割一分では、AGING LABでも全体のアートディレクションを担当。千葉本店に併設のAGING LABはピエール・ジャンヌレ、ピート・ヘイン・イーク、ピーター・アイビーの家具を配し、ゆったりとテイスティングに向き合える場となっている。NAGOYA SAKAEは壁紙に和紙を使うなど仕上げの素材を上質に、LABエリアをガラス張りにすることで発信拠点としての役割を持たせた。
そうした空間や購買体験をIMADEYAの名のもと象徴的にまとめているのが望月通陽氏のアートワークだ。AGING LABでは時の経過をあらわすロゴマークをつくり、ひとつひとつの商品にお酒の製造年を記したタグを添付。文字通り「顔」であるIMADEYAのロゴマークは企画等の指針としても機能していて、アートワークに惹かれ入社してきた社員も多い。「五割一分さんとの取り組みがはじまったばかりの頃に“IMADEYAは手仕事のお酒を扱っているのだから、ロゴにもアートを据えるべきだ”と望月さんの作品を提案いただいて。釘付けになって、一瞬ですべて持っていかれました」
「五割一分さんの仕事には美学や生き様を提示される感覚があります。お互い譲れない部分がぶつかることもありますが、そういう時はよく話し合って、一緒にIMADEYAの世界観をつくってきました」

染色、陶芸、紙版画、ブロンズなどの多様な手法を用いて独自の作品世界を持つ、望月通陽の手によるアートワークをロゴに


お酒の製造年が記されたヴィンテージタグ

IMADEYAが責任を持って熟成させたという品質の保証として専用のシールが貼られる


世界観のある酒屋へ
IMADEYAが目指してきたのは、取り扱うお酒だけでなく、その背景にある価値観や佇まい。IMADEYAならではの世界観まで伝えていくこと。その思いを具体的に形にしていくのが、空間設計やグラフィックデザインの役割でもある。「お酒は銘柄で買うものなので、良い商品を揃えていればものは売れます。でも世界観ができると、商品を右から左に流すだけじゃない、IMADEYAならではの仕事ができるんです」。
AGING LABでも重要なことは、蔵元の意向としての熟成ではなくIMADEYA独自の取り組みであること。熟成がもたらす魅力と同時に、つくり手の狙いとは違う味が世にでるリスクもIMADEYAが負う。だからひとつひとつしっかりとワックスペーパーに包んで、熟成開始年がわかるヴィンテージタグを掛ける。その価値創造を望月通陽のロゴや紙漉キハタノの贈答箱といったアートワークが支えている。
「うちは営業力を強化して来た会社です。そこで売って利益を残すだけじゃないおもしろさ、深み、存在意義をつくりたいとずっと思っていました。社内外の人に『世界観のある酒屋』と言ってもらえるようになって、やっとその入り口に立てている気がします。それがはじめに示してもらった、アートの力なんだと思います」

AGING LABのお酒は、一つひとつ丁寧にワックスペーパーに包まれる

手仕事により仕上げられる、紙漉キハタノの贈答箱

テイスティングルームにも望月通陽の作品が飾られる

熟成庫を識別する室名は、IMADEYAにゆかりのある年号
新しい日本文化をつくっていく
望月通陽や紙漉キハタノのアートワークはすべて五割一分がデザインに落とし込んでいる。繊細な仕事が求められるが、他にないものをつくるやりがいは大きい。「アートと手を組むことで日本のビジネスはもっとおもしろくなる」と話すのは社外取締役の小島さんだ。「求められてはいるけれど、企業がおいつけていないのが現状じゃないかと。僕らの取り組みがその成功事例になれたらと考えています」
IMADEYAの仕事は一方では酒を嗜む人々と文化、もう一方はつくり手、その先の農業にまでつながっている。想いのある酒を扱い、熟成の文化をつくっていくのはもちろん、手仕事の家具、和紙の壁紙やパッケージ、アートの力をかりて世界観を表現していくことも、誇りに思えるものづくりを次代に継ぐことにつながる。
「IMADEYAの聖地はやはり千葉にある本店。AGING LABを世界中から人が集まる場所にしたい。そうして日本酒を今以上に世界中で愛されるものにしていきたいですね」。時の経過のなかで、IMADEYA AGING LABORATORYは新しい日本文化を創造していく。



Writing 籔谷智恵
DATA
IMADEYA AGING LABORATORY
260-0801 千葉市中央区仁戸名町714-4(※一般公開は行っておりません)
0570-015-111